偽りのヒーロー
「だからって監視付きかよ……」
「当然だろ。何菜子に一対一で教えてもらえると思ってんだよ。しかも学校ない日に」
テスト前の貴重な休日。
レオにとってはこんなにも早い時期から勉強に臨むなど、かつてない準備をしていた。
勉強会と称したその集まりは、菜子の彼氏によって、甘い空気は微塵もない。会場となったのは、紫璃の家。
お店を営んでいるおかげか、集合住宅に比べてずいぶんとゆとりがあるように思う。
菜子に提言したはずのそれは、光の速さで紫璃に伝わっており、レオにとっては大誤算だといえよう。
それでも肩を落としているのはレオだけでなく、こんな形で初めて菜子を自宅に呼ぶこととなり、紫璃も同じように肩を落としていた。
「おまけつきで家呼ぶとか最悪だわ」
ため息をついた紫璃から出た言葉は、笑ってはいるものの、本心に違いない。
菜子がトイレに立ったのをいいことに、散々な言われようだ。言っていることは最もだとは思う。
菜子を目にした紫璃の両親が、ここぞとばかりに「いらっしゃい、よく来たわね」「ゆっくりしていってね」と声をかけていた。
きっと彼女を家に連れてくるのなんて、紫璃にとって滅多にないことのはず。頻繁に女を変えても、自宅に上がらせるのはちょっと、と言っていた。
部屋に入れたところでプライベートを漁るに決まってる、と嫌悪感丸出しだったあの頃のお前はどこにいったんだよ。
そう思って勉強も片手間になっていると、菜子がガチャリと紫璃の部屋の扉を開けた。
「なんか盛り上がってたけど、問題解いた? あ! 全然やってないじゃん。これじゃあテスト勉強の意味ないじゃん」
菜子が真っ白なレオのノートを見て怒りの声をあげた。
それを見た紫璃は、くくっと肩を揺らして笑っている。勉強なんて身に入らない。
はなから勉強する気などなかったのだから。