偽りのヒーロー



 レオにとっては、一時間足らずの勉強の時間が精いっぱいだった。もう降参だと、勉強道具を手放し寝転がる。

レオの解いた問題に赤ペンで修正を入れながら、汚れのないノートを見て、「平常点があるんだから、ちゃんとノート書いたほういいよ」なんて、呟いていた。



「紫璃ー。ケーキあるから取りに来てー」



 親に呼ばれた紫璃が、洋菓子店らしい差し入れを取りに、部屋の外へ出た。

既にだらんと疲弊しきったレオに威圧の眼差しを向け立ち上がっていた。肩を竦めてわずかに頷くと、カリカリとペンの音だけが部屋の中に木霊している。

 寝転がっていた身体をむくりと起こすと、レオがテーブルに頬杖をついている。



「もう一年?」



 おもむろに口を開いたレオの言葉が、菜子に向けられているものだというのは、すぐにわかった。それが今席を外している、紫璃との交際の月日を訊ねる言葉だということも。



「そうだね、一年経ったか。早いなー」



 にこにこと浮かべる菜子の笑顔から、順調な付き合いであることが窺える。そっか、とレオは呟いたが、僅かに均衡を乱す一言を投げかけた。



「紫璃にさあ、不満とかないの?」



 レオの言葉に、菜子は首を傾げていた。かと思えば、一息つく間もなく「ないよ」と言い放っている。

恐らく、現状に不満がないのだろう。

おおよそ断言した菜子の物言いは、確信しかり疑う余地もないほどの、真っすぐな目をしていた。



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