偽りのヒーロー
「……俺に言ってどうすんだよ」
「や、ごめん。なんか、隠しておけなくて……」
でかい図体に反して、子供みたいなやつだった。レオの素直なところは、羨ましい部分でもあるが、それが妬ましくもある。
自分にできないところを、いとも簡単にやってのけそうで。
「菜子に言ったのか?」
「……言ってない……」
「俺、一応彼氏なんだけど。よく俺の前で言えたな、それ」
醜い感情をかき消すように、紫璃は意地悪な笑みを浮かべた。意識的に明るい声で、そう言った。
「……紫璃。ちゃんと、菜子のこと見といてよ。俺、なんか、菜子のこと見ると、こう、ここがぶわってなっちゃうから」
「下手くそかよ」
そう言ったレオは、胸元をぎゅっと押さえて眉を寄せている。掴んだ胸元がくしゃくしゃに皺になるほど、強く、強く。
菜子が好きだと、正々堂々戦います、なんて言い出しそうな男なのだ、レオという親友のこいつは。それでも菜子のことで、その勉強できない頭を悩ませるくらいに。
けれど、こちらも到底引くことなどできないのだ。引くというのもおかしな話だろうか。既に、交際期間は一年にも及ぶというのに。
「じゃあ、お前は我慢してろ。言ってくれるな。ばれないように、その気持ちは隠しとけ」
「……」
「……テスト終わったら。クリスマスになったら。冬休みなったら。菜子うちに呼ぶからな。お前は言ってる意味わかるよな」
けん制とも言える決定打の一言を、紫璃はレオに突きつけた。
我慢しろとの助言に、レオの返事はない。それでも十分に意味は伝わっていると思う。
紫璃が女を家に呼ぶ意味、それも聖なる恋人同士のイベントの。否が応でもレオにもわかる。
彼女と一線越えますよ、というその宣言。
「……邪魔すんなよな」
ニッと、意地の悪い笑みで、レオは紫璃に送り出された。紫璃の家を出る足が重い。うん、とも素直に頷くこともできなくて。