偽りのヒーロー



 家に帰ると、既に6時近くになってしまっていた。

放課後、菖蒲の帰宅後を狙って、チャンスとばかりにレオに問い詰められて、「言うまで帰さねえかんなっ」と、ギャーギャー喚いてかわすのには骨を折った。

お菓子を開けて、椅子に深く座った暁には、本当に尋問される、と菜子の背中はヒヤリとしたのだった。




 急いで晩御飯を作らないと、と勢いよくドアを開ける。


「あれっ、なんだ、鍵開いてる……」



 菜子より一足先に帰宅しているであろう楓には、家にいるときでも、必ず内鍵は閉めるように言っているはずなのに。オートロックといえど、物騒な世の中だ。

菜子だけではなく父親からも口酸っぱく言われているはずなのだが、どうしたものか。ひとつ、姉として注意してやろうと声をあげる。



「楓〜? 帰ってるのー? ちゃんと鍵かけなって何度も言ってる……」

 弟を叱るはずの声は次第に小さくなり、言葉を小さくなって途切れた。玄関に、家族のものではないが、見慣れたスニーカーが目に入ってきたからだ。



「おかえりなさぁーい」

「おかえり」



 当たり前のようにソファー寛ぐ未蔓が、さも家族の一員かのよう。楓とゲームをやっていたらしく、ちょうどゲームオーバーの文字がテレビ画面で光っていた。



「ただいま。未蔓、来てたんだ」



 カバンを置いて、冷蔵庫の扉を開けると麦茶のポットを取り出す。

「ぼくにも」「俺にも」という声が聞こえて、グラスを3つ出すと、とくとくと冷たいお茶を注いで手渡した。



「おねっちゃん、しってた? みつるくん、こくはくされたんだって!」
「えっ、そうなの? いつ? 誰に?」



 うん、と平然と麦茶を飲み干す未蔓ののどぼとけが、大きく動いている。飄々とする未蔓を見て、あまりにも自分との落差を突きつけられたようで、菜子は小さくため息をついた。



 高校生になっただけで、こうも目まぐるしく周囲の人間に変化が訪れるものなのか。


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