偽りのヒーロー
クリスマスももうそこかと、足並み揃えてやってくる季節。菜子にプレゼントを買うために、紫璃は街に繰り出した。
テストの結果はまあまあだった。気の緩んだ冬休みの前、紫璃はどこか浮足立っていた。
既に街にはイルミネーションが煌々と輝いていた。クリスマスがもうそこにやっていきている証だ。
社会人だろうか、大学生だろうか。当日一緒に過ごせないのだろうカップルたちが、穴を埋めるように体を寄り添い歩いていた。
去年のプレゼントにあげたピアス。ことあるごとに菜子の耳元を飾るそれを見て、ほくそ笑んでいる自分が恥ずかしいとさえ感じる。
「去年のクリスマス」なんて言えるくらいにつき合いがあるのには、なんとも慣れない。
何が欲しいとも言わない彼女に送るのは一番悩むところである。ミウミウの財布が欲しいくらいに言ってくれたほうがわかりやすいのに。そんなことを考えながら、紫璃は寒空の中を歩いていた。
「あれ? 紫璃?」
どこかから紫璃の名前を呼ぶ声は、甘い甘い砂糖菓子を思わせる声。すっと好きだった、初恋の、初めての相手でもある人だった。
「……りん香、さん……」
すぐにその人の声だというのがわかった。紫璃が以前想いを寄せていた相手なのだから。振り返ればやはり、初恋の相手のりん香(りんか)。
綺麗に化粧を施した、到底女豹のような女などとは思えない、清潔感の漂う女の人だった。
「買い物? よかったらご飯食べてかない? 彼氏がバイトでドタキャンされちゃって」
近くのファミレスを指さしたりん香に、紫璃は遠慮がちに首を振った。
「や、俺、彼女のプレゼント買いに来たんで。まだ買ってないんすよ」
紫璃がそう告げると、百合香は聞く耳も持たすに紫璃の腕をとった。
「ちょっとでいいからつき合ってよ。ね、お願い」
上目遣いで紫璃を見るりん香は、頭の片でどこか可愛いと思うのは浮気ではないよな、と自身の心に規制をかけた。初恋の人が大事だというのは、きっと紫璃だけのことではないだろう。
ちょっと強引なところも変わっていない。紫璃はりん香を見てそう思っていた。風が吹きぬけるかと思うような、清潔感のある女性。
2つ上の、中学校で出会った女の先輩だった。