偽りのヒーロー
「それでね、あたしにご飯作れとか言うくせに、自分は全然作らないんだよ〜! バイト忙しいなんて、お互いさまなのにさあ」
半ば無理やり連れて来られたファミレス。向かい合った席で、可愛らしいスイーツをパクパクと口へ運んでいる。
その傍ら、こんなにも器用にぺちゃくちゃと喋るものだから、ずいぶんと器用なものだと感心さえしてしまう。
話していることは色事にまみれたことばかりだったが、年月が経ったせいか、ずいぶんと露に濡れたものが目立っていた。さすが女豹だと噂されているだけある。それでも嫌いだと、拒むことすら想定しない思考回路は、ずいぶんと都合がいい。
男なんてみんな初恋を引きずるものだと、何かのテレビで見たことがあるが、本当にその通りだな、と痛感しているところだった。
「紫璃はかっこよくなったねえ。昔もかっこよかったけど」
綺麗に弧を描く唇が、テラテラと光っていた。
唇についたクリームを舐めとる仕草が、なんとも妖艶に見えている。頬杖をついた顔は、やはり綺麗に化粧をされていて、綺麗な顔がより整ってみえたのは事実だった。
「この後ひま?」
おもむろに口を開くりん香に、「や、だから彼女のプレゼント買いに来たんですって」と当然のことながら突っぱねた。
「あたしも彼女のプレゼント選び、手伝おっか」
何を言い出すのかと思えば、暇つぶしであろうか。彼氏にドタキャンされたという、憂さ晴らしであろうか。何にせよ、受け入れる必要はない。
そう思って席を立つと、伝票を持った紫璃とあとをのこのことりん香はついてくる。
ハナからおごってもらう気などない。しかし、りん香のぶんも払うつもりはなかったが、財布を出して、「自分のは払うよ」と微笑まれれば、わずかに気分が高揚して、「いいっす。俺、払いますから」なんて気前のいい自分の言葉に困惑していた。