偽りのヒーロー
財布以外の荷物をりん香に預けると、最寄りのコンビニに足を向けた。
絆創膏の箱を手に持って、りん香のもとへ駆け寄った。ぺりぺりと絆創膏を剥がしてからやっと、「あれ、タイツの上からつけてもいいんすかね」と滅多に見えない、紫璃の上目遣いがりん香の目に焼き付いた。
「ありがとう……」
少しは痛みを軽減できるだろう。なけなしの絆創膏は、粘着力が弱くて、既にくしゃっと皺が寄っていた。蓋の開いた絆創膏の箱をりん香に預けると、「剥がれちゃうかもしんないんで、それ使ってください」と口を開く。
「……紫璃、なんか……」
菜子だったら、きっとこんなに高いヒールは履かないだろうな、そんなことを考えていると、紫璃の口元には笑みが浮かんでいた。
それを見ていたりん香は、その後に言葉を続けることはなかった。成長して、男の子から男性になりつつある紫璃から、目を放すことができなかった。
「俺、もう帰りますから」
駅のほうを指さすと、小さなりん香の手が、紫璃の手を包んだ。手袋のしていない手がかじかんで、小さく柔らかい手の感触がじんわりと伝わってくる。
紫璃の胸元に手を当てて背伸びをすると、りん香の息づかいがわかるほどに近かった。思わず固まる紫璃の唇に、りん香の唇が触れた。
……角度を変えて、深く深く。長い時間かと思えるほどの、予想外のキスだった。
「ありがと」
手を振って小さくなるりん香の姿を、小さくなるまでじっと見ていた。不可抗力だと言えるそれを、振り払うこともできなかったのを、握った拳が後悔の念を抱いている。
せっかくの、聖なる夜がすぐそこなのに。菜子には言えない、その秘密。呆
然としながら、人ごみの中を、紫璃はただただ立ちつくしていた。