偽りのヒーロー
action.22
終業式が終わると、その足でバイト先に向かうことになっていた。クリスマス周辺が繁忙期なのだ。
クリスマスに、お正月。年末年始に花で日常に彩りを添える人が多いのは、ロマンチックな光景が目に浮かんで、少しだけニヤニヤしてしまう菜子だった。
「菜子ー、冬休みさあ」
「立花ー」
教室の中で、ガタガタを椅子を揺らすレオの言葉をかき消すように、威勢のいい担任の加藤の声が響いている。
あたふたと、菜子と加藤を交互に見れば、何か言いたげに口をパクパクさせている。加藤の「早くしろー」という催促の声が近くなり、おろおろと焦りを見せていた。
「行かないの?」
「でも……」
「いいよ、バイトまで時間あるし。レオ来るまで待ってるから」
にっと菜子が笑みを向けると、安堵したように席をたつレオ。ドア横にたつ加藤のもとに駆け寄ると、こつんと頭を小突かれているのが見えた。
そのままどこかに歩いて行ってしまったが、何やら加藤の機嫌が良さそうで、少しだけ、菜子はホッとしていた。
「立花! お前やればできるじゃないか。もう少しで100番台なんてどうしたよ!?」
レオに詰め寄る加藤の息が荒い。100番台、なんて言っても、所詮200位。付け焼き刃のテスト勉強にしてはよくやったと思えるが、まだまだ称賛を乞うまでの道のりは遠い。
加藤に呼び出されて来た進路指導室。ここ最近は加藤に説教を食らう部屋になりつつあった。
「大和くんが褒めるなんて怖いね」
「このやろ! 人がちょっと褒めてやるかと思えば!」
今日の加藤は機嫌がいい。レオの頭を小突くその拳も、軽快な動きを見せている。にんまりとほくそ笑んで、この調子で頑張れば、就職もできそうだと、加藤は当人よりも意気揚々としていた。
「で、どうよ、ヒーローにはなれたのか」
加藤の何の気なにに放たれた言葉は、レオの胸に深く突き刺さった。何一つ、動き出していないどころか、紫璃に釘まで刺されてしまったこの現状。いいとは言えないな、とレオは天井を仰いだ。
「ううん。まだ、っていうか、ちょっと、考え中……」
ぼんやりと言葉を濁すと、加藤は驚いたように声をあげていた。
「へえ。すごいじゃん。お前に考えさせてくれるような人なのか。良い付き合いじゃん」