偽りのヒーロー
教室に戻ると、暖房がついているはずの室内に、乾いた冷たい空気が流れている。目を向けてみれば、菜子が窓を開け放っていたからだった。
「あ! 見てレオ! 雪! 雪降ってる!」
興奮していて、菜子の声が弾んでいた。はしゃいでいる姿がまるで子供のように思えて、レオは思わず噴き出した。
窓の外には、ちらほらと淡く白い雪が降っていた。地面に着くと、すぐに姿は見えなくなる。淡く切ないそれは、自分の感情みたいで、なんだかレオはやるせない気分だ。
窓際に立つ菜子の隣に立てば、長いこと窓を開けていたのだろうか、頬がわずかに赤くなっていた。
「……やっぱ俺、菜子のこと好きだなー」
世間話の如く、流れるようにレオは告げた。あまりに自然な言い草に、菜子は耳を疑っていた。目をぱちくりとさせて、女らしさのかけらもなく、耳をかっぽじっている様が滑稽だ。
それでも、こんなに可愛いと思ってしまうのだ。もう、止められそうにもなかった。
「……今12月だよ。エイプリルフールはとっくに終わってる……けど」
冗談めいた菜子の言葉も、いつものようにテンポのいい歯切れの良さはない。言葉に詰まってようやく出たその言葉は、レオの真意を謀りかねているようにも見える。
「そんな悪趣味な嘘はつかねえよっ」
ぷんぷんと至極、普段通りのレオと菜子の温度差は、おもしろいようにどんどんと開いていた。
微動だにしない菜子に、「紫璃は?」と当たり前のように話すレオに、クラスメイトのパーティーめいた集まりに参加していることを告げると、そっか、と変わった様子もなく笑っていた。