偽りのヒーロー
未蔓を気にして見ることなんてなかったけれど、中学校よりも高くなった背丈、昔はもやしとからかわれていたはずの袖から伸びた骨ばった腕。
顔を見られるのが嫌だと言って、伸びきって後ろで一つにくくった髪の毛も、傍から見たらお洒落な男の人に見えるのかしれない。
黒縁のメガネも、なんだか小顔を際立たせているようにも思えてきて、なんだか置いていかれた気分になる。
もとより優しい性格だし、女性によく思われても、不思議ではないのかもしれないが。
「なんだよー、未蔓まで私を置いていくわけね」
「何の話?」
「みんなモテて、いいなあって話」
「おねっちゃん、かわいそう……」
ずずっとすすった麦茶が、慰めという名の突然の弟の敵襲により、セーラー服の裾に染みをつくってしまった。
こら、と軽く頭を小突くと、楽しそうに制服の裾をヒラヒラさせていた。