偽りのヒーロー



「やっちまった……!」



 勢いあまって階段を駆け下りると、レオは下駄箱にずりずりとよりかかった。

下校する生徒が訝し気な目を向けるのも、全く気にならない。菜子の顔が頭にこびりついて、他のことなど入る隙もないのだ。

束の間の抱えた頭をあげると、キスの一つでもするべきだったかな、と少しの後悔の念を抱きながら、雪の降る道を傘もささずに歩いて行った。






 家に帰ると、菜子は煮え切れない感情を抱えて、お風呂場に飛び込んだ。ご飯も食べすにお風呂場へ直行する娘を、父はおろおろしながら視線を送っている。

熱いシャワーを浴びてもレオの笑顔が消えることがない。



うちに来て、と誘ってくれた紫璃を前にして、のうのうと顔向けするなんて、どうにも戸惑いばかりが頭を過ぎる。



「菖蒲はどうしたんだよー…」



 ぶくぶくと顎まで沈めて泡を吹いても、悩みはお湯に溶けることもない。




 いつからレオがそんな感情を向けていたんだろう。可愛いと言ってくれた顔だって、鏡を見れば、大して可愛くもない顔なのに。

なんで、いつから、どうしてだろう。疑問ばかりが浮かんできて、明確な答えなんか出そうにもなかった。



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