偽りのヒーロー
その日、菜子は紫璃の家に行く誘いを受けていた。
レオの唐突な想いの吐露を抱えて行くのは気が引ける。そんなことを言っても、図々しくも、紫璃と顔を合わせようとしている。
自分で言うのもなんだけれど、ずいぶんと面の皮が厚い女だな、と思っていることは、紫璃が知ることもない。
携帯がブルっと震え出す。菜子のプレゼントを買いに行った日から、頻繁にその名前が携帯に表示されるようになっていた。
「……りん香さん、俺、今日用事あるって言いませんでしたっけ……。大事な用なんすよ。なんかあるんなら早く言ってくれませんか」
できるだけ尾を引かないよう、努めてそっけない素振りで、言葉を重ねる。紫璃の手にした携帯からは、可愛らしい女の声が聞こえていた。
気まぐれに連絡をされるのは困る。そんなことをりん香に言ったところで通用しなかった。
つき合っていたと思っていたあの頃から、何度か携帯が変わることこそあったが、その電話番号とアドレスが変わることはなかった。別に変える必要などない。
そう思いながらも、どこかでりん香からの連絡が来るかもしれないと期待していたことは否定できない。
しかしながら、今の今まですっかりと抜け落ちていた、記憶が薄くなりつつあったというのも事実である。菜子とつき合うのが精いっぱいで——とは、菜子本人には言ってはいないけれど。
着信拒否、受信拒否。連絡を遮断する術はきっとある。
けれどそれができないのは、どこかで想いを募らせているようで、傍から見たら自覚しないようにするための自己防衛しかできないと思われてしまうかもしれない。
どこかで想いを断ち切りたい。どこかで重なる面影を、振り払ってしまいたい。
そう思う、気持ちもある。