偽りのヒーロー


 菜子が紫璃にあげたものとは比べ物にならないほど、洒落たそれに、幾分か気が引ける。ベタにマフラーでもあげようかとも思った考えは、街中の店のマネキンによって打ち消された。




 去年あげた手袋。今年はマフラー。

万が一そんなプレゼントをしてしまえば、全身菜子のプレゼントで紫璃を覆いつくそうとするだろう。

それに気づいたときにぞっとして、束縛もいいところだな、と考え直した結果がスマホのカバー。



同じクラスでないからこそ、日常の会話を聞き出そうとするのは難しい。そんな中、意外にも原田と紫璃が言葉を交わすことから、原田にリサーチしてみたのだ。

そろそろ買い替えたい、なんならもうちょっといいやつ買おうかな、そんな言葉を聞き逃さずにいた原田の観察眼にはさすがと言いたい。



 喜びもつかの間、あまりに綺麗なその紙袋を畳もうとすると、ほんの少しの違和感を抱く。菜子の思い過ごしかもしれない。そう思って袋の手提げを鼻の近くに持っていくと、



「……間違いじゃない。なんか、女の人の匂いがする」



 香水だろうか。それとも化粧品特有の、女性っぽい匂いだろうか。

それは女性の第六感としか言えなかったが、思わず不安がよぎってしまう。百貨店や、大きな化粧品売り場であれば、化粧品の匂いくらいするだろう。売り場だって、おおよそ女性の割合が多いだろう。


それでもどことなく心をかき乱すこの匂いに、落ち着いてはいられなかった。




 紫璃に連絡してみようか。


菜子がそう思ってから、数日経ってしまっていた。正月もすぐそこだ。祖父母の家に行くと話していた紫璃に、連絡するのはあまりにもタイミングが悪い。

それに、聞いたところでどうすればいいのだろう。そう思って、手にしていた携帯を、机の上に置くことにした。


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