偽りのヒーロー
action.3
期末テストの時期が近くなると、図書室も賑わいを増す。
放課後に図書室で勉強する人で多くなって、普段はよく足を運ぶ図書室は、この時期は皆の行動と相反して足が遠ざかる。
「あー! もうテスト嫌だーっ」
頭をぐしゃぐしゃとかき回して、この世の地獄みたいに青ざめるレオが騒がしい。隣の席で過ごしてきて、とうに勉強が苦手であろうことは既に検討がついていた。
「毎日やっときゃそんなに苦労しないのに」
「それができないから苦労してるんじゃんっ!」
険しい顔で怒られてしまう。逆ギレされたところで、どうすることもできない。
「補習は嫌だ、補習は嫌だ、俺の夏休み……」とぶつくさ呟き、こちらまで落ち込む気にあてられる。
「てなわけで、ノート貸してくんね?」
「汚さないでよー」
ちゃっかりしているな、と笑みが漏れる。
顔の前にあげた両手を合わせる仕草を見ても、憎めないのがレオのいいところだ。
ノートでぺしんと頭を叩くと、ぺろっと舌を出して笑っていた。
テスト前の心の荒れ模様を表すかのように、ザーザーと降りしきる雨粒が、家路に着く足をとどまらせる。
嫌々下駄箱に手をかけ上履きを入れると、静かに閉めた。
傘を持たずして立ち往生している友人たちが、「どうする?」「もうちょっと待つ?」とざわざわと歩みを止めていた。
ゴロ ゴロ ゴロ
たちまち曇天が空を埋め尽くし、滝のようなどしゃぶりの雨がアスファルトの色を変える。
お腹の底に響くような音と共に、割れんばかりのバリッというけたたましい音が、空に稲妻の光を走らせる。
「止むかな、これ……」
通り雨かと思った天候が、5分経っても10分経っても静かになることがない。時折大きな音と落ちる雷を見て、「キャー」と甲高い悲鳴が木霊していた。
「怖くねえの」
玄関周辺に人混みをつくるその中に、次第にクラスメイトも集まり始め、結城が菜子の隣に立ち止まる。
稲妻のピシャリと波打つ一瞬の煌々とした光が、薄暗い校内を照らす。ざわめきたつ女性徒の黄色い悲鳴を受けて、声すら上げない菜子に問う。
「……普通?」
「かわいくねえの」
バリッと空を割く大きな音に、菜子は小さく肩を揺らした。