偽りのヒーロー
冬場のバイトは、水を扱うぶん、辛さが倍くらいになってのしかかってくる。
寒さに耐え抜いた花たちは、そんなことも知らず、鮮やかに咲き誇っている。
新年を迎えて心晴れやかな日に、なんともふさわしいものだ。
冬休みのバイト先から家までの往復は、一人でその道のりを歩くことが多くなった。
わざわざ紫璃に迎えに来てというのも不自然な気もするし、別に毎日会わなければ彼女という称号を捨てないといけないわけではない。
クリスマスプレゼントとして、紫璃からもらった可愛らしいチークは、まだ使っていない。その上、それを包んでいた綺麗な紙袋も、他のショップの袋と一緒にしまうのもしっくり来ないでいた。
おかげで、机の横にひっそりと居場所なく引っ掛けられている始末だ。
紫璃からも、新年を迎える連絡が来ていた。×日に、祖父母の家から帰るという文章も添えられている。
その後は何往復かのゆるいやりとりののち今に至ったのだが、てっきり紫璃と顔を合わせるとばかり思っていたので、すんなりとバイトの終了時間を迎えて拍子抜けしている。