偽りのヒーロー
「なー。なんか俺だけでっかいんだよなー。兄ちゃんだって180もないし。昔橋の下から拾われてきたっての、真に受けてすげえびびってた」
「へー。レオだけ隔世遺伝なんじゃないの」
「かくせい? 何それ」
「……親じゃなくて祖父母に似てるってことだよ」
橋の下から拾われた、というレオの言葉から、一人だけ似ていないという意味を込めた冗談だったつもりが、ちっとも伝わっていなかったようで、菜子はレオの肩を軽く小突いた。
クウォーター、すなわち4分の1が外国の血が流れている人たちを指すが、レオはなんとなくそれが色濃く顕著に出ている……気がしないでもない。
レオの家は、3人姉弟だとは聞いていたが、初めて見たレオの姉に、菜子は物珍しそうな視線を向けた。
しっかりしていそうなレオの姉が、似ても似つかわないように思えて、自然と笑みが漏れる。
「じーちゃんなあ。時々エーゴで話すから、たまに何言ってっかわかんねんだよな」
「お祖父さんアメリカの人なの?」
「いや、イギリス」
「イギリス! いいなー。かっこいいね」
「かっこいいのかね。俺外国行ったことないしな。英語も喋れないし」
「32点だもんね」
「それはいいだろ! 期末は58点だったし!」
「……私は92点だったけどね」
「くっ……! それは言いっこなしだろうがよお!」
ははは、と乾いた笑い声を出すと、レオが悔しそうに菜子の方をがくがくと揺さぶっていた。
そいうえば、と入浴剤のお礼をレオに言おうとすると、レオが慌てて立ち上がった。
がさごそといくつかの袋を落としていて、それを菜子が拾い上げると、レオの姉らしき人物が駆け寄ってきた。
思わず菜子が振り向くと、驚いたように歓声を上げ、レオをばしばしと叩いていた。