偽りのヒーロー
赤くなった耳をさすると、菜子が手に持った袋をカンナが「ありがとうね」と言って引き取ってくれた。
レオにお礼を言いそびれてしまったが、しかたない、後で連絡するか、とその場を去ろうとしたところ、カンナが菜子の肩をぽんぽんと笑顔で叩いていた。
「菜子ちゃん、ちょっと時間ある? よかったら一緒にご飯でも食べて行かない?」
「え、いいんですか? でもお買い物は……」
「ふふ、いいの。もう終わったところなの。どう?」
そう言って、連れて来られたのは、喫茶店だった。
カジュアルレストランのような雰囲気で、それでいてそんな大衆向けでもないような。いかにも女性が好みそうなお店に、ついつい目移りしてしまう。
にこにこと笑みを浮かべるカンナと、突然のことで驚きつつも、レオの顔もにやけている。
大きなプレートにでかでかとのっているハンバーグを見て、カンナは目を丸くしていた。
「それ払うの誰だと思ってんの」そんな声が聞こえてきて、大きさも大きさだ、牛肉100パーセントの贅沢なそれは、そこそこ値が張るものなのだろう。
レオは加えて小さいピザも頼んでいて、それを見たカンナは溜息をついていた。
カンナの注文したものは、カレーライスだったが、お洒落に盛り付けられたそれは、あまりお腹にたまらなそうな量だった。
一方、菜子は生姜焼きを注文した。
「意外とがっつり系が好きなのね」とカンナに言われ、可愛げのない注文選びに些か恥ずかしさを感じてしまった。
口に運んだお店のご飯は、しょうががよく利いていて、お肉の筋もきっちりと叩いて伸ばされているようだった。
喫茶店の美味しいごはんに位置包みを打ちながら、レオとカンナと他愛もない話をした。家族のことや学校のこと、高校より前の中学以前の菜子の話もした。
うんうんとカンナが相槌をうつさながら、カンナが美容部員だという話を聞いて、身なりに気を遣っている理由が明確になって腑に落ちたような気がしていた。
ヘアメイクの専門学校に2年通ったのち、きっちりとそれを仕事にしている女性が輝かしく思えて、仕事の話を聞くのが楽しかった。
真っ直ぐな女性像が、菜子の目に焼き付いて、いかにも自立した女性のようだ。