偽りのヒーロー



 それにしても、クウォーターというのもなかなかに悩ましい生活なのだと知って、気苦労が絶えないものなのだな、と感じるところだ。


菜子にとっては遠い外国の血の通った華やかなイメージも、他人の勝手な印象によって腹立たしく思うことも多いらしい。

美容系に進路を決めた理由も、勝手に印象付けられた高い鼻、堀の深い顔だち。そんなものはもっていないのにも関わらず、クウォーターだというだけでただの日本人だと言われることもあるらしい。

勝手に誤解した上愕然とされ苛々するはずの感情をも屈強な力に変えているカンナに、胸を打たれるのは当然のことだ。




「すごいですね!」「もっと聞きたいです!」

なんて菜子が目を輝かせようものなら、饒舌になったカンナの話によって、ほとんどレオの声を聞くこともなかった。

ようやくそれに気づいたあとに、げらげらと笑い合うと、頬を膨らませたレオが、ぷんぷんと頬杖をついていた。



「ごめんねー。私ばっかり話しちゃって。
今実家帰ってきてるんだけどね、男ばっかりだから話になんないのよ。ああ、とか、うん、とか。どうしようもないのよねー。
やんなっちゃう、ろくに話もできなくて」


「嘘だろ。姉ちゃん家帰って喋りっぱなしのくせに。寝てるときだけじゃん、静かなの」



 気の置けない姉弟の口喧嘩に、菜子は笑わずにはいられなかった。明るい姉弟だ、きっと家の中もさぞかし楽し気な笑い声に包まれているのだろう。

絵に描いたような幸せな家族の光景が垣間見えて、当初の新刊を買う目的などすっかりと忘れていたが、それでもいいと思えるくらいには楽しい時間が流れていた。



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