偽りのヒーロー
「菜子ちゃんって彼氏いるの?」
唐突な女子会ノリに、つい「え?」と聞き直してしまいそうになった。
なんとか咀嚼できたカンナの質問に、菜子は「はい」と正直に答えた。レオはすっかりと頭を抱えていたが、カンナはそれに構わず、どんな人なの、いつからなの、なんて矢継ぎ早の質問に、菜子は口を開いた。
「すごいかっこいい人なんですよ。顔もですけど、優しいんです。時々子どもみたいなわがまま言うのもかわいいです」
「素敵ねー。大事な人なのね」
カンナの言葉にこくりと頷いた菜子は、横目でレオを目で追ったが、泣きそうな顔が目に入ると、途端に目を逸らしたくなった。
何も間違ったことは言っていないけれど、好意を向けてくれた人の前で言うのは酷だろうか。
酷、と言葉を濁すほうが、返って不誠実な気がしたけれど、なにぶんもてた試しもなければ、つき合うなどのことも菜子にとっては初めてのことだ。世間一般の正解かどうかはわからなかったけれど、菜子の中ではこれが一番いい解答だった。
一通り話終えると、テーブルの上のご飯は米粒一つなくきれいに平らげられていた。
大きないくつもの買い物袋をレオに持たせると、カンナは伝票を持ってレジに向かった。
「カンナさん! 私自分のは自分で払いますから」
「いいのいいの。私社会人だもの、それに今日はすごく楽しかった。ありがとうね、菜子ちゃん」
ひらひらと伝票をレジに置くと、社会人よろしく長財布からスマートにお金が支払われていた。レオにしてみたら姉なのだから、なんら遠慮する素振りを見せない。
当たり前なのだろうけど、申し訳ない気もして、そわそわして落ち着かなかった。
「菜子ちゃん、今度は二人で買い物行きましょ」
店の外でカンナがニコニコと笑みを向けると、ひらひら振られた手を背にせず、やっぱり、と菜子がカバンからお財布を取り出した。
「いいのよ本当に」と、カンナは否定していたが、菜子は半ば無理やりお金を渡した。
「あの、やっぱり払います。私もまたカンナさんとご飯したいので。また機会があったら、そのときにでも驕ってください」
そう言って菜子から受け取ると、カンナは目を丸くしていたけれど、「そうね」と呟き、渡したそれを懐に納めてくれた。