偽りのヒーロー
「じゃあね、菜子ちゃん」
「きーつけろよー」
ぶんぶんと大きく振った手は見事に揃っており、菜子は必死に笑いを堪えていた。菜子の姿が暗闇に溶けゆくまで、レオとカンナの見送りは続いていたが、そっとカンナが呟いた。
「……レオ。あんた全然入る隙ないじゃないの」
「うるさいなっ」と盾突いたものの、いとも簡単に傷を抉られた。傷を抉って、塩を塗り付け、家族というのは時々残酷にも感じられる。
はあ、とため息をつきながら、レオとカンナは二人並んで帰路についたが、始終菜子の話をされて耳を塞ぎたくもなった。
「彼氏、どんな子? 写真ないの? そんなカッコイイ子なら私も見たい」
「ねーよ男の写真なんて。なんか、あれ? ああいう感じの……」
反対の歩道を歩いていた男を指さして、レオはカンナに告げた。
顔は良く見えなくて、カンナによって「雰囲気かっこいい」という不名誉なあだ名をつけられていたが、レオはその人を目で追うので必死だった。
紫璃に見えるような気もするが、本人かはわからない。
カンナの追及するような言葉ばかりが耳に被さり、次第に視線は離れていった。