偽りのヒーロー
action.24
バイトにもすっかりこなれた、2年生の冬。ついに待ち望んでいた待望の声がかけられた。
「菜子ちゃん。今日時間あるかな?」
「? はい、大丈夫ですけど。どうしました? 結婚式の花の注文は明後日だと思いますけど」
「さすがだねえ。でも違うんだなー。これ!」
菜子の目の前には、大きな花束が差し出された。首を傾げる菜子に、店長とジュニアを抱っこした奥さまが表に出てきた。
「ブーケ! ちょっと作ってみない?」
「え! いいんですか!?」
店長の言葉に、菜子は目を丸くした。
ブーケづくりというのは、片手間にできることではないと、既に2年弱ほど働いてきた中で、十分に理解している。
華やかに見えつつも体力勝負の花屋の仕事は、花束、及びブーケづくりの花形の仕事も経験しないまま辞めていく人も多いと聞いていたからだ。
「いいよいいよー。大きいのはまだちょっと難しいと思うけど、小さいものからやっていくのはどうかな。菜子ちゃん勉強熱心だし、よかったらさ」
「是非! やりたいです! やらせてください!」
その日から、水あげの仕事や、書類の打ち込みの仕事だけではなく、ブーケづくりも仕事の一つになった。
ブーケというのは一長一短ではできないことはわかっていた。
花束を購入していく理由には多種多様なものがあるが、どれも祝いの意味が込められたものが多い。
贈呈理由に、金額、ボリューム。花の色合いもお客様のイメージに合わせてつくらなければならないそれは、到底客に出せるようなものではなかった。
「一回でできるようなら、こっちが商売あがったりだよ」
と、笑って話す店長に、練習あるのみだと連日バイト先へ足を運んだ。見様見真似で始めたブーケづくりを一から教えてもらう日々は毎日バイトの時間が早く過ぎるような気がしている。