偽りのヒーロー



 何度も思考錯誤を重ねているうち、これなら注文を受けてもOKだと店長の許可が下りたブーケは、2000円程度と金額に縛りをおいた小さなブーケだった。


茎を切らずに長さを残したままの、スタンダードな形の花束は、ナチュラルステムという名称のものだ。


誰にあげるかを想定したブーケづくりは、家族への感謝を伝える、母の日や父の日をイメージしたものにした。

店長が客を想定して注文してくれたのだが、恐らく普段の菜子との会話から、そのようにしてくれたのだろう。





 2000円の花束は、人件費及びもろもろの金額を入れると、花自体を2000円の金額分盛り込んでしまえば大赤字。

それらを加味した上での花束作りはなかなかに奥深い。





 菜子のブーケデビューの第一号は、家族にプレゼントをした。買い取る予定を、店長がプレゼントしてくれたのだ。



その日から母の写真の横に飾られた上、その前で家族写真を撮り、これでもかというほどもてはやされたブーケに、母の写真も大口を開けて笑っているかのように見えた。







「へー。それで最近なんか嬉しそうにしてんのね」



 新たな仕事を得たことを、菖蒲につらつらと言葉を重ねた。ふふふ、と時折漏れる笑みが、なんだか機嫌が良さそうだ。



「で、実際にモテた気分はどう?」

「え!?」

「立花。菜子告白されたんでしょ?」

「なんで知って……」

「わかりやすいもん、立花は。見てたらさすがにわかるよ」



 くすくすと笑いながら、菖蒲は淡々と言葉を述べた。口に含んでいたお菓子が喉に詰まって、菜子はゴホゴホとせき込んでいる。慌ててペットボトルに手をかけて、ごくごくと喉に流し込んだ。



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