偽りのヒーロー



 同じクラスなのだから、顔を合わせることもあるだろうし、修学旅行のあとくらいからだろうか。

菖蒲とレオはまともに言葉を交わしているとこををよく見る気がする。

以前のレオは照れてばかりで、遠巻きから見る、というのが定石だったはずなのに。



「……あんまりいい気分ではなかったかな」



 耳を掠める小さな声に、菖蒲は「……そう」と一言呟いた。



 レオに告白されたということ以外は、代わり映えのしない日々を送っている。返事を迫られたりということもない。

レオが普通に接してくるぶん、菜子も同じように普通に接しているつもりだが、やはりどこか最悪感が募るのは避けられない。はっきりと、無理だ、と伝えていないからだろうか。

レオに直接物申したわけではないものの、カンナ越しにはっきりと述べたつもりなのだが、なかなかにすっきりとした感情にはなることはなかった。



「菜子は真面目だからね」

「……どうしてるんだろうね、みんな。こんなふうになった人たちって」

「何にも思わないんじゃない?」

「そんなことないでしょ」

「ううん。何も思わなかった。私は。真面目に考えてるから、種類が違えど相手を大事に思うから悩むんだよね、きっと」



 確かに菖蒲の言葉には重みがあった。度々告白をされているような菖蒲にしてみたら、何も思わないということもあるのかもしれない。

一瞬の困惑、喜び、悲観、何かしらの感情を抱くこそあれど、それによって心が揺れるというのはないのかもしれない。



「……私、何にも考えないで付き合ったから、ばちがあたったのかも」



 へらりと笑みを浮かべる菜子を見て、菖蒲は眉間に皺を寄せた。菜子の頬をぐにぐにと抓るさまは、滑稽な様子とは相反して冷静な菖蒲が対照的だ。

次第に浮かべた笑みが崩れていき、菜子は袖で目を擦りあげた。



「……どうしていいかわかんないよ」



 涙ぐんだ菜子の声に、菖蒲は途端に狼狽える。周囲をきょろきょろと見て、菜子の頭を撫でていた。


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