偽りのヒーロー
「あらあら。菜子ちゃん、もうブーケ作れるようになったのね」
店先の木製ベンチに腰掛けたのは、常連客の一人、皐月(さつき)さんだ。
近くの古民家に住んでいるおばあちゃん。優しい物腰と柔らかい皐月のおばあちゃんの話し方が、菜子は大好きだった。
家からほど近いこの花屋ができてからは、購入するだけでなく、世間話をしによく来ているのだという。
店長の奥さんが身ごもった時も何やら奥さんの話し相手になっていたのをよく見ていた。
「まだまだ勉強中なんですけどね」という菜子に、皐月のおばあちゃんは目を細めて笑っていた。
「すごいねえ。孫が高校受験に受かったら、お祝いに菜子ちゃんに作ってもらおうかねえ」
「お孫さんそんなに大きいんですか? カスミちゃんでしたっけ。皐月さんに似てます?」
「あらまあよく覚えてること。霞はねえ、最近思春期っていうのみたいでねえ。お母さんと喧嘩したときはよくうちに来るねえ」
「ははっ。元気な子ですね」
皐月のおばあちゃんと他愛のない会話をしていると、小さな花束が出来上がった。
黄色いカーネーションをメインにした、明るい元気な色のブーケ。
満足気に鼻息をはくと、店内からうまくできたね、という声が聞こえてきた。