偽りのヒーロー
とある日、バイト先へ出てみれば、店長と奥さんが何やら取り囲んで難しそうな顔をしていた。
菜子が来たことにも気づかずに、「おはようございます」と声をかけて、ようやく菜子が来たことに気づいたらしい。さすれば作業台の上に置かれた何かを隠すように、苦笑いを浮かべていた。
「どうしたん……です、か……」
二人の隠そうとしたそれを、身体をこじ開け見てみれば、菜子は言葉を失った。店長と奥さんも、同じように、口を閉ざしている。
作業台の上には、菜子の作った黄色いカーネションのブーケ。時間が経ち、枯れて少し色を失った花束は、砂とほこりにまみれて、無惨な姿になっていた。
「……これ……」
絞り出すような菜子の声に、店長が重い口を開く。
「……配達行った帰りに拾ったんだ。そこの、裏の広場の……」
公園のような遊具こそないもの、ベンチの置かれた広場は、近くの人の散歩コースになっていた。何人もの人が、一日に通る場所。
店長は、言葉尻を濁していたが、ごみ箱に捨てられていたのだろうということは、予想がついた。
何もない道にぽてんと忘れ去られていれば、気づかず数多の足に踏まれて花弁の形を損なうだろう。
それに時間の経過のだけとは限られないほどに、ベタベタしていた。ジュースが手についてしまったような、そんなベタベタ感。
「ひどいわよね、これ……」
夫人の言葉に、菜子は苦笑いを浮かべていた。
「……あんまり下手すぎて、ですかね」
声色の重い菜子の背中を、夫人はぽんぽんと叩いていた。慰めるような、そんな手つきで。
休憩したときに忘れていったのかもしれない。そのままベンチに置き去りにしてしまったのかもしれない。次に広場に足を運んだ人が、お荷物だと思って、ほうりだしたのかもしれない。
様々な憶測が飛び交うも、菜子の暗くなった心を、さらに淀ませていくようだった。