偽りのヒーロー
それから何度かそんな後味の悪いことが続いていた。
菜子が見ただけでも、2,3回は及んでいる。店長たちのことだ、菜子に気を遣って隠しているかもしれない。
「サトウ」という名の奇妙な注文客自身がやっているとは限らない。しかしそれ以外は考えにくい。
受注を止めるかどうするか、なんて話が菜子の耳にも入ったくらいだ。
きっとバイト先に迷惑をかけているかもしれないと、気落ちしてしまっていた。
「奇特なことをする人がいるものね」
ここ最近、バイト先でそんなことが起こり、落ち込む菜子を菖蒲が慰めていた。
「その人、見たことないの?」
「うん……。なんかいつも閉店間際に来るんだって」
菜子を指名する、仮の常連客を、菜子自身は一度も見たことがない。
もちろん仕事で電話応対をすることもあるが、菜子がとった電話には、サトウという注文客はいなかった。
店長らに聞いたところ、閉店間際にそそくさとその花束を引き取りにくるのだと言っていた。
目深く被った帽子、マスク、時折眼鏡をしてくることもあるとは言っており、話を聞くだけでもきな臭い印象だ。
時期も時期だ、風邪予防、花粉症対策、寒さ対策。マスクも帽子も眼鏡だって、していておかしいわけではないのだけれど。
それを聞いて、何度か閉店の時間まで残っていたことがある。しかしながら、そんなに何度も居残るわけにもいかなかった。
家事も勉強も、帰ってやらなければいけないことがあるのだから、それも数回しか張ることができなかった。
その間、菜子がサトウという客と会うことはなかったが、菜子がいない時間にきっちりと受け取りに来るのだという。
人物像は、不審な人、けれど、受け取るときには「綺麗ですね」「ありがとうございます」と、いかにも丁寧な客という印象らしく、菜子の作った花束を、度々捨てる犯人だと割り出すには、決定打に欠けているのだ。
もやもやして、鬱憤が溜まっている。そんな菜子を気遣って、菖蒲がバイトの有無を聞いてきた。
「今日はないよ、バイト」
「じゃあさ、今日遊びに行かない? 買い物行こ。ね?」
「菖蒲〜〜〜」
そうして、放課後が羽を伸ばしに街中へ出たのだった。