偽りのヒーロー
電車で数駅、同じ学校の生徒だけでなく、多くの人で賑わう繁華街。ぶらぶらとウィンドウショッピングを楽しみつつ、憂さ晴らしだと、カラオケにも行った。
下手くそな菜子の歌声も、マイクを通した大きな声を出すだけで、少しモヤが晴れていくのだから単純だ。
「私、誰かから恨まれてんのかな」
と、ぽつりともらした菜子の弱音は、菖蒲がマイクを通して「何かあったら言いなさい」と高飛車な慰めの言葉にけたけたと笑い声をあげている。
2〜3時間のカラオケを十分に謳歌すると、外の景色も暗くなっていた。そろそろ帰路につく時間。菖蒲と駅に向かえば、未蔓とレオとの2人と鉢合わせした。
「未蔓とレオも来てたんだ」
「ん。遊びに」
「そっかー」
「菜子は菖蒲ちゃんと二人なん?」
きょろきょろと辺りを見渡すレオは、どうやら紫璃を探しているらしい。
「そんなずっと一緒にいるわけじゃないよ」
苦笑しながら電車に乗り込むと、帰宅ラッシュなのか、ぎゅうぎゅうと小さな箱の中に押し込められる。
身長の小さな菖蒲は、乗客の波に飲み込まれ、顔をしかめている。
ドアの近く手すりに菖蒲を引っ張る未蔓の姿に成長を感じて、「大人になったね」と菜子がからかえば、「だいぶ前からね」と笑っていた。
ぎゅうぎゅう詰めになった電車の中でも、レオはひときわ目立つように思う。頭ひとつ抜き出ているし、高いと思った未蔓の身長より、もっと高い。
かくいう菜子も、165cmの身長に、数センチのローファーを履いていれば、そこそこ苦しくない空間に顔を置くことができる。
それでも密着する身体がくすぐったくて、思わず菜子は身を捩った。
「ちょっ、あんま動くなって」
「あ、ごめん。これレオの足? ちょっとぐらつくから足の位置変えたい……。レオの足踏んだらごめん」
暗くなった外の景色が、電車の扉の窓を、真っ黒くしている。
鏡のように車内の様子を映す窓は、覆いかぶさるレオの身体に、菜子がぴったりと閉じ込められているように見えて、どこか後ろめたさを感じていた。
黒い窓ガラス越しにレオと目が合ってしまい、互いに笑みを浮かべた。