偽りのヒーロー
菜子の携帯を手にしたレオの手から、するりとそれが引き抜かれた。紫璃がレオの手から奪い取ったのだ。
「紫璃が持ってくってさ」、そう言ってレオは通話の終了ボタンをタップした。暗くなった画面に映る自分の顔が、喜びとも悲しみともとれない、仏頂面をしているのを見て、つい苦笑してしまった。
早々と教室から出ようとする紫璃に、レオが口を開いた。
「紫璃! ……菜子は見てないから。俺が見えないように隠してやったかんな!」
そういうと、レオは自分の目元を手で覆い隠す仕草をしている。笑いを交えて、ニカっと笑みを浮かべて。
「感謝しろよな」
「……さんきゅ。いい仕事してる」
打って変わって柔らかい雰囲気になった二人の会話は、テンポよく弾んでいた。互いに笑い合いながら、意地の悪い顔をしていた。
教室を後にした紫璃の背中を、レオはじっと見つめていた。
「何やってるんだろ、俺……」と漏らした言葉は、誰にも聞こえない。自分以外の、誰にも聞こえることはない。