偽りのヒーロー
action.25
紫璃とのデートの余韻を残して、週明けの菜子は浮かれ気味だった。鼻歌を歌いそうなほどの満面な笑みを浮かべる頃、昼休みの教室のドアから、廊下の冷たい風が流れていた。
「菜子。なんか呼んでるわよ」
菖蒲が開いた教室の扉を指さしていた。ぶんぶんと大きく手招きをして、こっちに来いとぎゃあぎゃあと騒いでいる。
一年前のクラスメイトの、和馬だった。
「ちょっとさー、話あっから飯一緒に食わね?」
パンがいくつか入ったビニール袋を引っ提げて、菜子の目の前にガサゴソと音を鳴らして見せつけた。
首を傾げる菜子に、和馬は苦笑いをしていた。和馬の目線の先を辿ってみれば、レオがちらちらとこちらの様子を窺っているようだ。
「たぶん、教室じゃないほうがいい。てか、菜子の教室と……あと紫璃がいないとこがいいかな」
「え、何、なんか怖いんだけど……」
「とにかく! 時間なくなるから飯行こうぜ!」
訳も分からないまま、菜子は和馬のあとをとことことついて行った。
行きついた先は、和馬の所属するバスケ部の部室。男の人の匂いが微かに立ちこめるその中には、男女数人が、お昼ご飯を食べていた。
「ここ入っていいの? 私部外者……」
「いいよ。教室も学食も人に聞かれてそうで安心できねえし」
失礼します、と上履きを脱ぐと、見慣れた顔が何人かいてほっとしていた。
元クラスメイトで、バスケ部のマネージャーをしている茉莉(まつり)や、同じくバスケ部であろう人たちが楽し気に談笑しながらお昼のひと時を過ごしていた。
「いつもここで食べてるの?」
「いや。今日は特別」
何人もの、和馬と菜子以外の部員は、和馬がここでお昼を食べるためのカモフラージュ要員だという。男女二人で密室にいると知れて、部活動停止になったらたまらないと、こうした形をとったらしい。
そこまでして外部に遮断する話とはなんだろうか。
部室にお邪魔したところで、他の部員と合流することもなく、隅っこで和馬と二人、菜子はお昼をとることにした。