偽りのヒーロー
「ちょっと背伸びた?」
「お! わかる!? なんか今年入って伸びたんだよ! たぶん3年なったら菜子のこと見下ろしてるわ」
始めは、そんな他愛もない世間話。けれど次第に和馬の口は、重くなっていくようだった。
「あのさあ、昴さんっていたじゃん?」
「ああ、うん。バスケ部の先輩ね」
「そうそう。あのさ、昴さんって、紫璃と同じ中学らしいんだけど……」
「へー。そうなんだ。知らなかった。中学んときもさぞかしかっこよかったんだろうねえ」
「だよなあ、俺もそう思う……ってそうじゃなくて!」
「? なによ?」
そうして気まずそうに差し出されたのは、和馬の携帯だった。
誰かと連絡を取っている画面が写し出されていて、いくつもの吹き出しが並んでいた。「見ていいの?」と和馬の顔を見てみれば、パンを詰め込みぱんぱんに頬が膨らんだ顔が、こくこくと上下していた。
和馬の携帯には、昴さんとのいくつものやりとりが連なっていた。
画面を少し、スクロールしてそのやりとりを辿ってみれば、菜子の名前が何度も出ていた。
加えて、紫璃の名前も。菜子のことを窺うような文字のスクリーンショットが、たくさん並んでいる。
菜子ちゃんって子知ってる?
かわいい?
いつから紫璃とつき合ってるか知ってる?
その子の連絡先とかわからないかな(><)
「何これ……」
菜子が言葉を失うと、和馬がごくりと喉にご飯を落としている。
「なー、なんかこえーよな。初めは普通に昴さんも答えてたみたいなんだけどさ、すげえ菜子のこと聞いてくっから知り合いかと思って俺に連絡したっぽい」
「いや、全然知らないけど……」
「しかも昴さんだけじゃなくて、他の人にも聞いてるみたいだぜ」
何も、言葉が出なかった。恐いという感情もなかったが、ただただ疑問が大きくなるばかり。考え込むように菜子が黙ると、和馬が言葉を重ねている。
「てかなんでこの人、紫璃の姉ちゃんに聞かねんだろ」
「……そりゃ友達の弟だったら、なんとなく聞きにくいからじゃないの」
「まあなー。紫璃の元カノみたいだしな! ……やべっ」
偶然にも談笑の波が途切れたところで、和馬の口から爆弾が落とされた。