偽りのヒーロー
いつもより少し遅くなった登校時間。エレベーターに乗り込めば、未蔓と鉢合わせをした。
いつからだっただろう、未蔓と一緒に通学をしなくなったのは。久しぶりに一緒に電車に乗り、学校までの道のりを登校してみると、ずいぶんと通学時間が短く感じられた。
「なんか久しぶりだね。未蔓と学校行くの」
「菜子が俺のこと避けるからね」
「……避けてるわけじゃないじゃん!」
「ふ、そうだね。結城のためだしね」
「んー。まあね。そのはずだったんだけど……あ、そういえば萩ちゃん受験どうだった?」
「大丈夫そう。たぶんうちは受かってる」
「あれ? 同じ高校来るの?」
「そうなるかな」
学校に向かう道中、会話が途切れることはなかった。
萩司の受験のことや、楓がインフルエンザかもしれないこと。移したら困るから手洗いうがいとしっかりしてくれと懇願していると、すぐに学校へ着いてしまった。
同じくして登校する生徒が多い中、後ろから、菜子の肩をポン、と叩かれる。
未蔓を見送り、菜子がその場で足を止めた。
「ああ、茉莉。おはよー」
「おはよ。菜子、昨日のことなんだけど」
清々しい朝だというのに、難しい顔をしている茉莉。
「昨日」という茉莉の言葉が、和馬と話した内容であることは容易に想像できた。
階段を茉莉と二人で昇りながら話をすると、「佐藤りん香」なる人物のことで進言するような話だった。
「佐藤さん、って人。あの人さ、男好きって有名みたいだよ」
「え?」
「あんま評判良くないみたい。昨日、他校のバスケ部のマネの子たちと連絡してたんだけど、あの人、いろんな高校の男とつき合いあったっぽいもん。きもいわ、まじで。不潔な女は無理」
「茉莉は発言が過激すぎるわ。そういうとこめっちゃ好き」
「でしょ。菜子みたいなもの好きには人気あんのよ、この性格」
くくっと、菜子が肩を揺らして笑うと、教室の前で「あたしアンチ紫璃だから」と、恐ろしい笑みを浮かべて去って行った。
冗談めいたやりとりだったが、物怖じせずにはっきりとした物言いをする茉莉の言葉は信実味がある。
どうしたものか、と椅子に身体を預けると、重い体に重力を感じた。