偽りのヒーロー
action.26
その日、菜子を探しに何度も2組の教室に足を運んだ。行けども行けども、教室にいない、そして蓮見に睨まれる。
携帯を何度鳴らしても応答しない菜子に、わずかな苛立ちさえ感じていたが、すぐに理不尽な自分勝手んあ感情だと、それを必死に抑え込んだ。
放課後になると、ようやくゆっくり話せるであろうタイミングが訪れた。
菜子の今日のバイトの有無も、何も知らない。バイトがあったとしても、帰りにゆっくり時間をとれるだろうと、高をくくっていたのだ。
帰り際、2組に顔を出せば、ばったりと蓮見と目が合ってしまった。
「何しに来たわけ。菜子今いないけど」
「いつ戻ってくんの」
「あんたには話したくない」
普段から人当たりのいいとも言えない蓮見の言葉が、今日は氷の矢のように突き刺さる。
さては蓮見に告げ口したな、とひっそりと眉間に皺を寄せると、いつも通りの菜子の姿が遠くに見えた。何人かの生徒越しに目が合ったのは見逃さない。
しかしながら、菜子は気まずそうに誰かの後ろに隠れて歩いては、自分の目から逃れようと教室にこっそりと入って行った。
つかつかと菜子のクラスに足を踏み入れれば、「菜子」と呼ぶ声に、小さく身体を上下させていた。
「ちょっと話したいんだけど」
努めて優しく言ったつもりの言葉に、菜子はふるふると首をふるっていた。いそいそと帰り支度をする菜子を、怪訝な顔で遮った。
「そんなに俺と話すのヤなのかよ」
「……今は、無理。何言っても、ちゃんと話聞けないと思う」
「それでもいいから時間くれって言ってんじゃん」
「だから、今日はちょっと無理なんだって……」
頭を下げて、腰を低くして言っているつもりだったが、高圧的な自分の言葉には気づいていた。それでも仕方がない、気づく前に、言葉が先に出てしまうのだから。
頑なに嫌がる菜子に苛立ちが募って、「じゃあいいわ」と、吐き捨てるように教室を去っても、後を追ってくることはなかった。
そればかりか、連絡さえもよこさない。
こちらが譲歩しているというにも関わらず、この仕打ち。俺ばかりが悪いみたいじゃないか。
そう思って、再び携帯を見てみれば、りん香さんの名前しか、画面には写し出されていなかった。