偽りのヒーロー
偶然にも、りん香と連絡を取り合うようになって、早いもので数か月経ってしまった。
初めは本当に、偶然の。
あろうことか、菜子のクリスマスプレゼントを買い求めに行ったときに会ったのが始まりだった。
もとより、携帯の番号もアドレスも変えていなかったのだ。連絡をとるのは容易だっただろう。
彼女に喜んでもらえた?
華やかな顔文字をあしらった文面のやりとりをするのは、久しぶりのことだった。
りん香と会うつもりなど、初めのうちはなかった。年末、祖父母のうちに行く予定が、急な大口の注文が入ったと取りやめになったのだ。
姉弟だけで行ってもいいと、親には言われていたものの、姉とは違って、紫璃は乗り気ではなかった。暇になったその時間を、菜子に使おうかとバイト先の花屋に足を運んでみれば、その日は店のシャッターが閉まっていた。
菜子に連絡をとってもよかった。
けれどそれをしなかったのは、家族と年末を過ごすだろうな、というささやかながらの気づかいだった。菜子にも会えず、多忙に店で働く親の手伝いをする気も起きなくて、街中をふらりと歩いていたときだった。
雑踏の中でも見つけられる、りん香の姿を目の当たりにして、目を強く擦りあげた。
煌々と輝くホテルの中から見知らぬ男と出てくれば、出口の前で、周囲の人に目をもくれず、熱いキスをしていた。
菜子だったらそんなことしないだろうな、と思わず肩を揺らしていると、ツカツカとヒールを鳴らすりん香が駆け寄ってきたのには驚いた。
「りん香さん、まだこういうことしてるんすか」
つき合い、という割にはビジネスライクの、割り切った愛。
お金の受諾がないぶん健全なのかもしれないが、菜子とつき合ってからはそんな考えも一掃していたはずだった。
「んー。だって家帰るのヤなんだもん」
ぷくっと膨らませた頬は、いかにも女ウケが悪そうだ。可愛らしい容姿も利用する度胸は評価しえるものだろうが、それはきっと異性に限ることだろう。
「紫璃、せっかく会ったんだから、送ってってよ。ねっ」
「ほんと、家の前までっすよ」
それが、引き金になることも知らず、のうのうとりん香の家までの帰路についたのは、今では正解かどうかも判断がつかないことだった。