偽りのヒーロー
「ここ」と、りん香に案内されるがまま、家の前まで送って行くと、お世辞にも綺麗とは言い難い、ボロボロの木造アパート。
ポストも古いタイプに見える。
今時通販で姉が良く使う、メール便の大きな封筒は入りそうにもなかった。
「本当にここに住んでるんすか」
オブラートに包むこともせず、ものの見事に鋭い言葉を投げかけた。
りん香のことだ、お洒落なマンションまでとはいかないが、できる限りいい感じのところに住んでいるものばかり思っていた。
高校を卒業したあと、就職したというのは風の噂で知っていた。姉の同級生なのだ、どうしたって耳に入ってくる。
さすれば独り立ち、いわば一人暮らしをしていても不思議ではなのだが、この違和感はなんなのだろうか。
加えて、半年程度で、上司と不倫まがいのことをして、就職先を辞めたということもしかとこの耳に入っていたのだけれど。
「上がってく?」
誘い文句も、甘い言葉とは程遠いように感じていた。
不思議に思って誘われるがままりん香の家に足を踏み入れてみれば、思っていたより質素な家具が並んでいる。
服は何着も積み重ねられていたが、古い畳のアパートは、今にも隙間風で凍えてしまいそうなほどだった。
「ぼろいなあって思ったでしょ」
ふふふ、と笑いながら差し出されたカップには、温かいコーヒーが入れられていた。
「最近の100均って可愛い食器とかあるんだよお。いいよねえ」
一人暮らしなのだから、食器も自炊もしても可笑しくはないはずなのに、りん香の顔が陰りを見せている。
「こんなとこには男の人、連れて来れないでしょ」
そう言って笑うりん香が、児童養護施設で育ったことは、今、初めて知った。