偽りのヒーロー
紫璃がりん香に溺れていたころ、よくりん香が足を運んでいた公園。施設から歩いて行ける距離の公園だった。
学校の同級生たちや、一つ屋根の下で寝食を共にしている中では、泣き叫ぶこともままならず、ここへ足を運んでいたという、りん香いわく憩いの場。
「中学のときは、よかったよねー。紫璃と一緒にいたときは、楽しかったなー」
思い出話をするように、にこにこと笑みを浮かべるりん香が痛々しい。
家は客を連れて来なければ、バレずにすむが、服だけは、貧乏らしさを隠せないから、数がいる、らしかった。
「つき合ってないって言ってたの、そっちじゃないですか」
「だあってさ、親に捨てられた女とか、なんかヤでしょ。心象悪いしぃ。それに、あたし、女の子に嫌われてるからさ」
「それは……誰彼構わずヤッたりするからじゃないですか……」
紫璃の声が、尻すぼみになっていた。知るはずのなかった事実を知った今、この人の傍から離れる判断ができなかったからだ。
「……紫璃は良い子だからね。あたしは、キスしたりエッチしたりしてるときだけは生きてるって思う。幸せだって思えるの。そのときだけは、愛されてるって思えるから」
甘く囁く声も、今は自身の目の前にあるほろ苦いコーヒーみたいだ。
紫璃の感情は揺れるばかり。
何も言えなくなった静かな空気に、りん香の声が響いていた。
「紫璃だったら、今の紫璃だったら、話してもいいかもって思ったの」
「なんで、ですか……。俺のこと、駆け引きするみたいなことしたの、そっちじゃないすか……」
「紫璃は案外鈍いところがあるよね」