偽りのヒーロー
昔の記憶を必死に呼び起こした。
かといっても、自分が知っていることは、今言ったことが全てだ。なのに、含みを持ったりん香の言葉に何が秘められているのかもわからない。
りん香の顔をじっと見つめれば、可愛らしく笑って、口を開いていた。
「私、確かにいろんな人とエッチしたけどねえ。中学のときも。でも、後輩に手出したの、紫璃だけなんだよ。知らなかった?」
「や、そんなこと……」
「他はぜーんぶ同じ歳か先輩なの。他校の子も。今は社会人だったら誰でもよかったんだけどお」
「……」
「でも紫璃見てたら、誰でもよくなくなった」
「……何……言ってるんすか」
「……なのに紫璃は、プレゼントで悩んじゃうくらい好きな彼女がいるんだね……」
堪えきれない大粒の涙が、りん香の目に伝っていた。ぼろぼろと落ちる涙を、見ているだけではいられなかった。
「……りん香!」
そう言って、抱きしめたりん香は菜子より、ずっと小さいようだった。
その日、りん香と一緒に寝たのは、薄っぺらい、煎餅布団だった。ヒューヒューと室内にいても耳にこびりつく隙間風。
それをかき消すように、深く口付けを落として、それ以上のことも——。
こんなことをしておいて、吐き捨てるような台詞を言う自分のモラルなどたかが知れる。
それでも菜子に言わなければならないと思うのは、こんなに真剣に人とつき合ったのは初めてだからだ。確かに初恋はりん香だった。けれど、初めて女を束縛するほどに好きになったのは、菜子だったのだ。
誤解をされても、何があっても、話し合わねば始まらない。それなのに、話しかけることさえ躊躇われる。
しかし今は、何も考えがまとまらない。