偽りのヒーロー
紫璃と口を聞かなくなって、どれくらい経っただろうか。
もう春休みも目前だ。高校生活最後の、春休みだというのに、菜子の感情はおぼつかない状況である。
そんなこととはつゆ知らず、2年生最後の期末テストは初めて3位になって、思わず苦笑した。何があっても揺らがない鉄の心臓のようだ、と菜子は笑わずにはいられなかった。
楓のインフルエンザは、一週間の出席停止が医師によって命じられた。高熱、嘔吐、頭痛もろもろに悩まされていたが、峠を越えてからは、けろりと笑い声をあげてほっとした。
年度末が近かったことから、菜子が4時前後に帰宅すれば、父は入れ替わるように仕事に出ていた。
社会人の辛さを痛感した。役職についているということは知っていたから、仕方のないことだとは思うけれど、12時近くに帰ってきて、朝は楓の看病をして、菜子と入れ替わりに仕事に行くかと思えば頭の下がる思いだった。
仕事もそうだし、楓のしんどい様子を見て疲弊していたのだろう。
看病3日目のヒレカツは残していたが、さっぱりとしたなめろうは完食されていた。胃にくるくらい心配したのも可笑しくはない。
葉山家で初めてのインフルエンザ患者だった。
躊躇している菜子を見かねてか、菖蒲に何度もケツ叩きをされた。
「別れるにしろ、ちゃんと話したほうがいいわよ」なんて。傍から見たら、別れるのが自然に思えてしまうほど歪んでしまったこと。
やり直したい。そう思ったのは、初めてだった。