偽りのヒーロー
action.27
春休みに入っても、紫璃から連絡はなかったが、菜子から連絡することもなかった。
家とバイト先を行き来して、それなりに友人とも遊んで。楓の友達が、毎日のように遊びに来たことを除けば、こんなにも、平穏な毎日。
気持ちの整理もつかないまま、あろうことか最上級生になっていた。
国文、国理、私文、就職、専門。何度も記入した進路調査票と共に、成績も加えて割り振られたクラスは、予想どおりに、国文クラスの2組に菜子の名前があった。
「まあ、そうなるよね」
玄関先に張り出されたクラス分けを見て、菜子は苦笑いをしていたところだ。蓮見菖蒲、葉山菜子、そして結城紫璃。
出席番号順に並んでいる名前を見て、気が重くなってしまったのは、ここだけの秘密だ。
松浦、通称まっつん。間宮、通称まみやっち。宮田、はそのまま宮田。去年、一昨年と、菜子と紫璃の間の砦となっていたクラスメイトの名前はそこにはない。
そうすれば、容易に想像ができること。出席番号順で座るであろう最初の席が、紫璃と前後になってしまうことだった。
恐る恐る教室に入って黒板を凝視した。
席順がチョークで記載されていたが、やはり菜子の後ろが紫璃の席だった。今日に限っては、菜子より遅く登校してきたようだった。
振り返らずに、自然に菖蒲と笑っているところに、紫璃の挨拶は交わされなかった。
つまらないジンクスのようだけれど、紫璃がおはようと一言言ってくれたら、自分も笑って返そう、そう思っていたのだが、夢見心地の戯言は、いとも簡単に現実を前に崩れ去ったのだ。
プリントを渡すにも、後ろを振り向いて紫璃のほうを向かないとならないし、プリントを回収するにも、紫璃の手に渡さなければならないし。
否が応でも関わることを拒否することもできない。
それでも、進路という将来の分岐点に関わる3年生のクラスわけを、一時に感情で流されずに、菜子と同じクラスは嫌だから、なんて理由をこじつけるような人でなくてよかった。
意外に真面目なところがあるのが、菜子にとっては唯一の救いでもあった。