偽りのヒーロー
終業式の日は、いつもより早く学校が終わる。その足で繁華街に遊びにいく友人達も多い中、菜子と菖蒲はファーストフード店の前を通った。
「レオ。あれ葉山じゃね? 蓮見もいるっぽいけど」
「えっ、菖蒲ちゃん!? どれ!」
歩道側のガラスにべったりと張りつくレオ。結城と二人で暇を潰していたファーストフード店で、店の前を通りかかったクラスメイトを見つけた。菜子と菖蒲が揃って何やら笑いながら歩いていた。
レオが勢いよくガラスに張りついたせいで、驚いたのか菜子は菖蒲にぶつかってごめんごめんと謝っていたようだ。
ガラス一枚に阻まれた店内に、その声は聞こえて来なかったが、菜子の慌てぶりを見て、相当に驚いたのは間違いない。
「どっか行くのかな。俺、菖蒲ちゃん送ってこうかな……!」
店内から見える菖蒲が、進行方向を指さしていた。それに頷く菜子が、ひらひら手を振って通り過ぎそうになった。
「行っとけ行っとけ。葉山こっちに呼んでやる」
にししと意地悪な笑みを浮かべた結城が、そわそわと落ち着かないレオに声をかけた。今にも通り過ぎそうな菜子に、隣にいる菖蒲に見えないように手招きする。
一瞬、疑問符が頭の上に浮かび上がったかのように、間抜けな顔をしていたが、すぐに察してこくこくと頷いた。
慌ててカバンを持って菖蒲のもとへ駆けていくレオの代わりに、菜子が店内に踏み入れた。外から手を振るレオの顔が、ずいぶんとだらしなくなっていた。
ヒヤリと冷房が効いた涼しい店内は、同じような高校生で溢れていた。ウーロン茶にハンバーガーを頼むと、トレイを持って窓際に座る結城のもとへ向かった。