偽りのヒーロー





 入学式。

まだピカピカのブレザーを身に纏った新一年生が校内を歩いているのが、なんだか微笑ましい。


紫璃との距離を測りかねて遅刻ギリギリに登校した菜子が、奇しくも新入生の受付係になってしまったのは、図らずも心に安寧を与えてくれる。


7組まであるクラスに振り分けられた新入生を、1〜4組までの1年生の胸元に祝いの安全ピンをつけるのが、今の菜子の仕事だ。

教室にいなくていいなんて、不幸中の幸いである。加えて一緒にその作業をするのが原田だなんて、気心が知れている。



「菜っ子はまた遅刻したの」

「違うってば。遅刻ギリギリなの! そしたらなんか係になってたよ……」

「ふっ。菜っ子らしい。でもよかった。知らない人じゃなくて」

「菖蒲だったら尚のことよかったってかー、はいはい」

「そんなこと言ってないでしょ。菖蒲ちゃんいたら新入生にかまけてらんないよ」



 3年生になって黒くなった原田の髪の毛は、受験を見据えて暗く染め上げられたものだ。

菜子にとっては見慣れたはずの姿だったか、中学のときはあったはずのメガネをコンタクトにしただけで、こんなにも変わるものかと、まじまじと隣にいる原田を見てしまう。

理由なんて、聞かなくてもわかるけど。



 優しい性格をそのままに、高校デビューしたりして、菖蒲に好意を抱き、振られたかと思えば、今はいい感じになっていて。

そんな原田が羨ましくもあるけれど、本人の頑張りがここまできた努力の結晶であるのがまた原田らしい。



「直っぴは本当にかっこよくなったね」

「え!? ごめん菜っ子、俺今お菓子とか持ってなくて」

「たかるつもりじゃないんですけど!」



 けたけたと笑い合うのも、原田だったらこんなにも自然にできるのに。


教室に戻ったところで、また緊張の糸が張り詰めるのかと思うと、先が思いやられる。



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