偽りのヒーロー
「一年生も、楽しいって思ってくれたらいいね」
「そうだねえ」
「俺は、ちょっと遠いけど、この学校来てよかったなって思うよ」
「ふふ。そうだねえ」
時折目の前に訪れる新入生の胸元に祝いのバッチをつけて、「入学おめでとうございます」と声をかけて。
緊張して強張った下級生の顔が、なんとも微笑ましい。
原田との会話が穏やかなのも相まって、張り付けられたものではない、本当の菜子の笑顔が見える。
「菜っ子は楽しい?」
「ん?」
「菜っ子は今、楽しい?」
聞き返した菜子の耳に、ゆっくりと染みわたるような優しい声が木霊した。
原田のことだ、気にかけてくれているのは明白だ。察しがいいのに、距離感を保てる優しさも持ち合わせている、聡明な人だ。
「何かあったら、言ってね」
「ん? うん」
「俺は菖蒲ちゃんとか未蔓とか……あとレオとか。あいつらみたいに、菜っ子の味方ではないけど」
「ふはっ。違うんだ」
「中立の立場だけど、話、聞くからね」
「……うん。ありがとう」
オルゴールみたいに緩やかな原田の声は、心洗われる、癒しの声のよう。
にこにこと笑みを浮かべる顔が、すいぶんと成長を感じさせる。健全に、見本みたいに成長を遂げている。
自分も、ちゃんと成長できているのだろうか。2年前までは、一人で立つこともままらないまま、仮面をかぶって笑っていたのに。
そんな自分が今は、どう見えているだろうか。