偽りのヒーロー




「一年生も、楽しいって思ってくれたらいいね」

「そうだねえ」

「俺は、ちょっと遠いけど、この学校来てよかったなって思うよ」

「ふふ。そうだねえ」



 時折目の前に訪れる新入生の胸元に祝いのバッチをつけて、「入学おめでとうございます」と声をかけて。

緊張して強張った下級生の顔が、なんとも微笑ましい。



原田との会話が穏やかなのも相まって、張り付けられたものではない、本当の菜子の笑顔が見える。



「菜っ子は楽しい?」

「ん?」

「菜っ子は今、楽しい?」



 聞き返した菜子の耳に、ゆっくりと染みわたるような優しい声が木霊した。

原田のことだ、気にかけてくれているのは明白だ。察しがいいのに、距離感を保てる優しさも持ち合わせている、聡明な人だ。



「何かあったら、言ってね」

「ん? うん」

「俺は菖蒲ちゃんとか未蔓とか……あとレオとか。あいつらみたいに、菜っ子の味方ではないけど」

「ふはっ。違うんだ」

「中立の立場だけど、話、聞くからね」

「……うん。ありがとう」



 オルゴールみたいに緩やかな原田の声は、心洗われる、癒しの声のよう。

にこにこと笑みを浮かべる顔が、すいぶんと成長を感じさせる。健全に、見本みたいに成長を遂げている。



自分も、ちゃんと成長できているのだろうか。2年前までは、一人で立つこともままらないまま、仮面をかぶって笑っていたのに。

そんな自分が今は、どう見えているだろうか。


< 331 / 425 >

この作品をシェア

pagetop