偽りのヒーロー




「……そう。よかったね。売り上げに貢献してくれてどうも」



 そう言って、菜子は床に落ちた花を拾い上げると、その場を立ち去ろうとした。



「待ちなさいよ」



 可愛げのない憎まれ口に聞こえたのかもしれない。

納得がいなかったのか、菜子のカバンを櫻庭が勢いよく引っ張ると、よろけた拍子にカバンの中身をぶちまけてしまった。

急いでした身支度が仇となってしまっていた。カバンのファスナーを閉めるのを忘れていたのだ。



 バラバラと床に無惨に散らばったカバンの中身を拾おうとしゃがみこむと、その手を上履きでぐりぐりと踏みつけられた。



「痛っ……」



 困惑した菜子の声を楽しむかのように、ぐりぐりと手のひらに櫻庭の上履きが食い込んでいた。爪が割れてしまうのではないかと心配してしまうほどに、痛みを感じる。



 菜子は自分の手を引き抜こうと勢いよく手を引けば、自身の手だけはなんとか引き抜くことができた。床で擦れた手のひらには、床に擦れた擦り傷が滲んでいる。


それだけなら、我慢もできたものの。



「! ちょっと! その足どけてよ!!」



 菜子の荒げた大きな声に、櫻庭が肩を揺らしていた。菜子の声に驚いていたのは、櫻庭だけではない。周囲に人が集まるのに目もくれず、菜子は苛立ちを隠せなかった。



 慌てて櫻庭を押し返せば、「キャッ」と黄色い声をあげてよろけていた。

その黄色い声にも腹を立てていたが、何よりも、母からもらった押し花をあしらった栞が、踏みつけられて、ぼろぼろになっているのを見て、思わずカッとなってしまっていた。


感情のコントロールが効かなくて、爆発してしまったような気がしていた。


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