偽りのヒーロー
学校を終えた後、未蔓の家に来ていたという原田が、菖蒲から連絡をもらっていたとだと言う。
菜子にも大丈夫だったかと様子を窺う菖蒲からの連絡がきていて、よほど慌てていたんだろうな、と笑ってしまった。
微かに浮かべた菜子の笑みを見て、原田は胸を撫で下ろしていた。
「菜子。レオから連絡来てるけど、どうする?」
「え、なんでだろう」
「さあ。でもすごい騒ぎだったんでしょ」
1組となってクラスの離れたはずの未蔓と原田にの耳にまで届くとは、なんとも噂が広がるのは早いものだ。対応しきれないよ、と眉を下げれば、「レオ下まで来ちゃったけど」と、ぽつりと呟く未蔓。
そんな未蔓を揺さぶることも、今の手ではできそうにもなかった。
「今は会いたくないな……」
へら、と浮かべた菜子に、原田は戸惑っているようだった。腰を低くして、菜子の背中をさするように宥めている。
「菜っ子。とりあえず、俺がレオに言っとく。ちょうど帰ろうと思ってたし」
口を開くのも、億劫で、こくこくと首を上下にふると、原田はそのままエレベーターに乗り込み、下へと降りて行ってしまった。
「菜子んち着いてく?」
そう問う未蔓の言葉には、左右に首を振った。「そう」と素っ気ない一言は、ふわりと笑った顔で、優しい響きを持っていた。
「じゃあ家の前まで一緒行く」
「ふふっ。どうも」
何十秒もかからない通路を、未蔓と一緒に歩けば、家の扉の前で、深呼吸をした。ぽんと頭に大きな未蔓の手のひらがのると、「強くなったね」と笑っていた。
微笑み返すとドアノブに手をかけ、いざ戦場へと言わんばかりの面持ちで家の中に入った。