偽りのヒーロー
喧嘩の発端。それにかかわること全て。
話しなさい、と促す父に、どこまで話してもいいかわからず、たどたどしく説明をした。
バイト先でブーケを作れるようになったのに、それが見るも無残な姿で放置されるという嫌がらせ染みたことがあったこと。
それをしていた人物は同じ学校の同級生だったことまでは説明したが、それ以上詳細な説明をするには、紫璃のことは避けて通れないことだった。
奇しくも事足りない説明に、「それで話は全部か」と疑念の目を向けられて、渋々紫璃のことを話す羽目になってしまったのだった。
「な、なんだ……。菜子、お前、か、彼氏がいたのか……」
「いるよねえ。ゲーノー人みたいにかっこいい人だよね!」
「何!? 楓は見たことあるのか!?」
踏んだり蹴ったりとはこのことか。
あちらこちらに飛び交う会話の主体は、既に紫璃のほうへ向けられており、軌道修正には骨が折れそうだ。
「でもたぶん彼氏とは別れたから、あんま関係ないっていうか、喧嘩中の不運な事故というか」
「何!? 別れたのか!? たぶんってなんなんだ!?」
度々激しさを増す父のリアクションに、菜子も楓もげらげらと笑ってしまっていた。
ワイプ芸人みたいな、オーバーリアクションは、とても家の中で行われているものだとも思えない。それほど驚き、心配と、当然ながらわが子に注ぐ愛情が垣間見えて、しばし胸の中で反省をした。