偽りのヒーロー
原因の追究もさることながら、相手に怪我がないかとか、いろいろ話すと、悠に一時間は超えてしまっていた。
溜まりにたまった鬱憤に引き金になったのは、母からもらった栞。
今は形見になったそれをテーブルの上に出すと、ところどころに血が滲んでいる欠片もあって、父は目を細めながら見ていた。
パズルのようにバラバラになったピースを合わせた栞は、セロハンテープの継ぎ接ぎだらけのものになってしまった。けれどおおよそもとに戻すことができて安堵した菜子に、父は口を開いた。
「菜子」
改まった父の言葉に、菜子は「はい」と背筋を伸ばした。
「喧嘩はいいけど、暴力はだめだ、怪我もな」
「うん」
「血が出ることだけじゃない。言葉や行動で人を傷つけるようなこともだめだ」
「うん」
「うん。わかってればいいんだ。菜子が悪いんじゃないってわかってるからな。父さんは菜子の味方だからな」
「……ありがとう。でも、私も相手の身体押しちゃったの。よろけて転んでた。ブーケ捨てたのは許せないけど、それ以外は私も悪いね」
「うん。ま、菜子に怪我させたのは親としては怒りたいところだけどな」
「ふふ」
「素直なんだろうな。真っ直ぐだけど、ちょっとやり方が逸れただけかな、その子も」
「だと思う。後で、ちゃんと話してみる。今日は苛々しちゃって、ろくに話もできなかったから」
「……うん。それがいいな」
にっこりと微笑む父は、くしゃりと頭を撫でると、「ご飯にするか!」と意気揚々と立ち上がった。
——その日の夕ご飯は、残り物とカップラーメンだったけど、笑みが漏れるくらい美味しかった。
「……それで、菜子。か、彼氏のことなんだが……」
「それはもういいでしょっ」