偽りのヒーロー
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action.28
翌日は、どれほど騒ぎを知られているかわからないと考え、クラスメイトに追及されないように、あえて予鈴と同じくらいに教室に入った。
いじめではないと確信しているけれど、まさか復讐かのごとく上履きが隠されたりはしていないよな、と疑心暗鬼になりながら下駄箱を開ければ、代わり映えのない踵を揃えた上履きがあることに、胸を撫で下ろした。
朝の予鈴と共にゆっくりと扉を開けると、顔を揃えてクラスメイトが菜子のほうを向いていた。
ざわざわとした話声がピタリとやむと、菖蒲の「おはよう」と他愛のない挨拶のおかげで、再び教室がにぎやかになった。
「菖蒲、昨日ありがと。直っぴに会ったよ」
「ううん。それより、傷、大丈夫?」
「うん。見た目だけ。こんなぐるぐる巻きにしなくても平気なんだけど、一応ね」
菖蒲の大きな瞳が垂れていて、よっぽど気にかけていてくれたのが伝わってきた。
カバンを机の横にかけると、後ろの席から、狼狽えて震えた声が聞こえてきた。
「……どうしたんだよ、それ」
「あ。久しぶりに喋ってくれたね」
ニッと浮かべた菜子の笑みに、紫璃は困惑しているようだった。
何も耳に入っていないのならそれでいい。昨日の周囲の様子からすれば、いずれ耳に入ってしまうと思うけれど。
「菜子。ほっときなっ」
ぷりぷり怒った菖蒲が、あんまり可愛く見えて、整った容姿は役得だな、なんて冷静に考えることができる。予
鈴と同時に教室に入ったおかげで、すぐに担任が朝のホームルームに、教室へやってきた。
「——……。じゃあ、これで終わりなー。っと、葉山ー。お前は職員室来い」
くいっと職員室を指さした加藤は、飄々としている。
「はい」と加藤と共に職員室までの道のりをとぼとぼ歩くと、やはり教師に昨日の状況説明を求められた。
10分の短い休み時間だけでは収拾がつかなくて、自習だった5時間目の授業時間と、放課後まで話が及んだ。
「ここまでいくと恋愛ってなんだろうって思うよな。最近の女子高生はすごいな」
顎に手を当てた加藤が物珍しそうに口を開いているのがどうにもおかしい。怪
我の心配はされたが、怪我自体に驚いている素振りも見えず、さすがは大人な教師だな、と感じていた。