偽りのヒーロー



 無情にも前後になってしまった席は、登校初日に挨拶一つ交わさず、大して仲もよくないクラスメイトより、もっと格下の状況になってしまっていたと思うのに。




 例えばプリントを渡すとき、わざわざ身体を捻って紫璃の机にそれを渡す。

それだけではない。
小テストの回収だって、机の上に置いておけばそれを勝手に持っていくのに、必ずといっていいほど、受け手いしっかり手渡される。

真面目な素振りはあまりにも自然にやってのけられて。自分との違いに動揺するばかり。




 自然消滅、なんてしたことがない。というよりも、一回やったら、とりあえずそれで終了。そんな終わり方はあるけれど、俗にいう自然消滅なるものを経験したことがなかった。

もちろん、こんなに単位が〝年〟に及ぶほどの付き合いも。



強欲で、わがままだ。

それでもいいからとタイミングを見計らってみれば、なぜか怪我をしているし。

ブーケの嫌がらせのことだって、もっとちゃんと言ってくれたらよかったのに、と思ってしまうのは、既に遅いとは理解しているが。



 
「ツケがまわってきたんじゃない? 紫璃があんまり適当に女の人とつき合ってたからさ」



 にしし、と菜子は悪戯した子どもみたいな顔をしていた。到底怪我人とは思えない表情だった。





 菜子の喧嘩の相手だという「櫻庭」と聞いても、正直なところピンと来なかった。

修学旅行で告白された、と聞いて、記憶はすぐに呼び起こされた。


告白なんてものの数秒であしらうようにしてしまたが、高校に入ってすぐに一線を超えるようなつき合いをした女だから少し安心していたのだ。

たまに勘違いをして彼女だどうだと主張する女もいるが、意外にも割り切ったそのつき合いを理解している人が多いからだ。



どうにも、今回のことで、しっぺ返しを食らってしまったのは明確だが。




「……ほんとだな。菜子にまで怪我させて」



 そうやって懺悔の言葉を漏らせば、ヒットどころかホームランみたいに言葉を投げ返してくる。



「まあ、治るから、私のは」

「? 何言って……」

「でもたぶん櫻庭さんのは治るのに時間かかるね。心の傷だから。紫璃、なんて言ってふったの? 私これでもかってくらいたぶん恨まれてたみたいだったよ」






――そんなことを言われても、すぐには何を言ったかも思い出せないのに







< 348 / 425 >

この作品をシェア

pagetop