偽りのヒーロー
数日前、教室に違う色の学年章をつけた女の人が来ていた。
長い前髪の肩より短いボブを耳にかけて、シルバーのきらりと光るピアスが良く似合った2年生。
間違いなく目立つタイプの人だろうと、菜子の目に留まっていた。背中に手を当て、ぴったりと寄り添った身体が、恐らく彼女であることを確信させた。
「あー、あれはもう別れた?」
しなびけた細いポテトを一本食べながら、当然の如く淡々と話す。呆気にとられた菜子の口の端から、ぽろりとバンズのくずが落ちた。
「すごいね。何人目? 結構違う人とつき合ってるよね? ころころ変わってるし」
はっきりとした菜子の物言いに、結城は思わずぶはっと噴き出していた。目をぱちくりとさせて状況を飲み込めない菜子が、失礼な言葉を投げかけたことに気づき、ごめんと頭を下げる。
「つき合ってるっていうかー…、なんかそういう流れになっただけ」
「そういう流れ?」
「……はっきり言ったほうがいい?」
意地悪な結城の笑みに、菜子はふるふると左右に頭を振る。
はっきりと言葉にせずとも、容易に想像がついた。彼女とはっきりしたものではないのかもしれないが、それに似た関係の人と、それにあたいする行動を伴っているということだろう。
「要するに、たらしってことでいいの?」
ストローを加えると、菜子はパンで乾いた口内をウーロン茶で潤した。
「ずいぶんひでえ言いようだな」
頬杖をつく結城に、またも失礼な言葉を浴びせる。しかしながら傷ついた様子は微塵もなく、結城は平然としていた。
菜子は結城を物珍しそうな目で見る時がある。
中学まではいなかった類の同級生が、菜子には不思議で仕方がない。自分の中にない思考回路と行動性が、興味の対象のひとつになっている。
だからと言って、好意を抱くには程遠い人物なのだが。
「誰でもいいってわけじゃねえの。あんま可愛くない奴は、ちょっとごめんだけど」
「……すみません」
可愛くないやつ、という言葉に反応した。
見る見るうちに小さくなる菜子に、「誰もお前のことだなんて言ってねえだろ」という励ましの言葉に、やっと顔をあげることができた。