偽りのヒーロー
目の前で紫璃が涙を零している。人目を憚らず……とは言っても周囲に人気はないけれど。アスファルトにできた染みが、肉眼で確認できるほどに、ぼろぼろと泣いていた。
誤算は2つあった。
別れたと思っていたけれど、まだ微かでも菜子に好意を向けてくれていたこと。
そして、りん香の出生。
偏見と思われても仕方がない。それでも、紫璃の話に納得をしてしまった自分がいる。
母がいなくてかわいそうなんて思われたくもなかったのに、そんな自分がりん香をかわいそうだと思ってしまったことに虫唾が走る。
恋人も、デートも。キスも肌を重ねるのも、手を繋ぐのも。
幼い頃とはきっと別の、神聖なものと思ってしまうのは、まだ菜子が子供だからなのだろうか。それでもりん香を汚いなんて、思うことはできなかった。
きっと私が、一番気持ちがわかる。
人によりかかろうとしたのは、菜子もりん香も全く同じだと思う。
人数に開きはあれど、その真意に差はないと理解している。痛いくらいにわかってしまう。
菜子にとっては、家族をなくした虚無感は埋められなかった。泣き言を、暗く辛い顔をしている家族にも。
それを補うように、未蔓によりかかっていたのは事実だ。
そこにキスもエッチも何もないけれど、一人で持てない荷物を当然のように未蔓に持たせてしまっていたと思う。
未蔓は人の気持ちに敏感だ。嫌だと言葉ではいいつつも、菜子がよりかかるのを否定したりはしなかった。それに甘えていたのは菜子だ。それに気づかず、紫璃に初めて指摘されて困惑したのは忘れられない。
未蔓に寄りかかっていてはダメだ、なんて都合のいい考えだ。だからといって、紫璃に乗り換えていいはずもないのに、菜子はそれをしてしまった。
罪の意識も何もないのが一番だめだ。愚かさを認識していないということだから。