偽りのヒーロー
友人となった紫璃には、度々驚かされた。
「別にいいから」と何度も何度も遠慮した菜子の言葉は受け入れず、菓子折りならぬ自分の家のお店のケーキを手土産に家まで怪我をさせたことを詫びに来たのだから、驚いても仕方がない。
思わぬ豪華なお菓子に楓は飛び上がって喜んでいたが、父の絶句したような顔は忘れられない。
未蔓や萩司以外の男の人を家の中に入れたのは、初めてだったから。
紫璃が家にまで来てくれて、最初は説教の一つくらいいってやろうと意気込んでいたようだが、紫璃を目の前にしてたどたどしい言葉しか出なかったようだった。
「な、菜子は嫁入り前の、だ、大事な娘でして……」
「はい、わかっているつもりです。怪我の元凶が僕なことには代わりないので、言い訳もできないです……。申し訳ありませんでした」
「そ、そうか。あ、ありがとう」
微妙に食い違った会話が妙に面白くて、度々噴き出してしまった。
「ていうか紫璃、僕とか言えたんだね」、なんて茶化して笑い合えるぐらいには、良い仲になっていると思う。
その日もらった紫璃の家のケーキは、甘くて美味しかったのに、しょっぱい味しかしないと遠吠えを吐く父はちょっとだけ泣いていた。